日本の報道でもよく取り上げられていますが、インバウンド効果によって日本のコンビニや量販店でも中国系の電子マネーの使用が可能な場所が増えています。中国人は電子マネーを使う人が多い、中国は電子マネーが進んでいる、という話は決して新しい話ではありません。
ですが、中国現地ではよく使われているというイメージ以上のことが起きています。現地ではよく使われるという次元を超え、現金だけでなくクレジットカードで支払ができる場所やシーンが無くなりつつあります。
弊社の現地駐在スタッフから、実体験をベースにしたキャッシュレスの状況について紹介します。
マクロ環境から見たキャッシュレス
金融サービスベンダーで世界的なリーダーであるFIS(Fidelity National Information Services)が発表した「Worldpay from FIS 2023年グローバル決済レポート(以下グローバル決済レポート)」によると、中国での決済方法における電子マネーの割合は、Eコマースで81%、従来コマースで56%であった。普及率はどちらも2番手のインドをはるかに超えて世界1位となっている。
また中国支払清算協会が発表した中国支払産業年報2022によると、2021年末時点で、電子マネーの利用者は9.04億人に達したと報じられた。また、同協会が発表した中国支払産業年報2021によると、74%のユーザーが毎日使用すると回答した。
グローバル決済レポートでは日本にも触れており、日本ではEコマースの支払いはクレジット払いが57%、電子マネーが18%、従来コマースの支払いは現金が51%、クレジットカード32%、電子マネー10%となっており、未だ現金またはクレジットカードがメインの決済手段であることが伺える。
上述のデータからも中国では電子マネーが生活に欠かせない決済手段といえるが、実際の生活ではどうなっているのだろうか。
電子マネーの使用場面
移動
各種交通機関では電子マネー決済が前提となっている。
タクシーはドライバーがアリペイかWechatペイのQRコードが印刷されたプラカードを持っており、それを使用して支払いを行う。実際あった話だが、クレジットカードは決済端末を搭載していないため拒否されてしまうこともあった。現金も使用する顧客が少ないため、ドライバーが現金を持ち合わせておらず、いざ現金で払うとおつりが出せないということが起きてしまう。
上海でよく見かけるシェアサイクルは電子マネーonlyとなっている。QRコードを読み取って自転車の錠前を解除、移動先で自転車の錠前を締めると電子マネーで決済されるようになっている。
地下鉄は券売機で現金をチャージすることも可能だが、利用するユーザーはほとんどいない。上海の地下鉄では「Metro大都会」と呼ばれる専用アプリがあり、電子マネーを使ってアプリにチャージを行い、改札口でQRコードを読み取り、地下鉄を降りて改札を通ると区間に応じた金額がアプリから決済される仕組みになっている。
中国版の新幹線にあたる高速鉄道は、チケット売り場での現金使用は可能となっているが、今では多くのユーザーが専用アプリの「中国鉄路12306」、または旅行系アプリの「携程旅行」を使用し、電子マネーで支払を済ませることが多い。以前、高速鉄道のチケット売り場は春節になるとごった返しており旧正月の風物詩とも言えたが、電子マネーを活用したオンライン決済が可能になり以前に比べてチケット売り場の利用は減った。
コンビニ・スーパー・市場
コンビニ・スーパーは、電子マネーが前提となっているが一部の店舗で現金・クレジットカードが使用できた。中国系のコンビニである聯華超市はどこも電子マネーonlyだった。日系のコンビニは、使えるお店と使えないお店があり、チェーンと言っても必ず使えるとは限らないようだった。ドイツ系のALDIはカウンターと自動レジが置かれており、自動レジは電子マネーonlyであったが、カウンターではクレジットカードによる支払ができるようになっていた。
飲食店
テーブル席に座ると、テーブルの端にQRコードが貼り付けられているお店がとても多い。利用者はこのQRコードをスマホで読み取るとメニューが表示され、そこからメニューの注文・支払いができるようになっている。もちろんスマホの中で全て済ませることになるため、支払いはここでも電子マネーが主体である。
街中の屋台のでは口頭での注文になるが、支払いはQRコードのプラカードをスキャンして支払う。
ケーキ屋やカフェでは、初期投資・ランニングコストの高いフルスペックなPOS機は使用されておらず、決済用のQRコードを読みとる簡易的なPOS機だけを置くお店が圧倒的に多い。
その他
宝くじスクラッチ
ここでも電子マネーを活用して当選金の支払いが行われている。無人販売の場合は当選したスクラッチの券を無人販売機に差し込むと、賞金支払用のQRコードを提示される。利用者がスマホで読み取ると賞金が送られる仕組みになっている。有人の購買所でもお店の方がスクラッチの受取り用QRコードをスキャンして金額を送金してくれる。
自動販売機
一部では硬貨が使えるところもあるが、一般的にはやはり電子マネー。コカ・コーラの自動販売機は、硬貨投入口はあってもよく見ると塞がっている。他にもショーケースタイプの自動販売機もある。こちらのタイプは、扉に貼ってあるQRコードをスキャンするとショーケースの扉が空き、商品を取って扉を閉じると自動で支払が進むという自動販売機である。電子マネー決済が前提となっており、ないと使えない。
家賃・光熱費
ここまでくるともうお分かりだと思うが、ここも電子マネー。賃貸契約は大家と直接結んでいるが、家賃の支払いはアリペイの送金機能を使っている。また、光熱費の支払いもアリペイの光熱費支払ミニアプリに事前に電力会社や水道局から渡された支払番号等のデータを登録しておくと、期日が来るとアリペイを経由して引かれるようになっている。
病院
病院も電子マネーに対応している。患者の多くも支払いは電子マネーを使用している。例えば高齢者が治療を受け医療費がかさみ支払に困った場合、遠く住んでいる子供や親せきが電子マネーを使って送金や代理支払を済ませることができるようになっている。
行政サービスでの利用状況
ここに記載しているのは作者が実際に体験した範囲のことであるが、電子マネーが使えるシーンは増えていると感じる。実際、2022年に赴任してから現金onlyだったのは、上海市出入国管理局への居留許可の申請費用の支払いと、上海日本総領事館へのパスポート更新費用の支払の2回のみであった。この二つでは逆に電子マネーが使えないため、普段現金も持ち合わせていないことからわざわざ銀行ATMに行ってお金を下ろすことになった。
終わりに
本日ご紹介した内容はほんの一例でしかないが、社会全体の実装が現金やクレジットカード払いから、QRコードによる電子マネー決済に既に変わっている。
次回以降では、なぜ中国は他の国と比べて電子マネーが普及したのか、QRコード決済以外の新しい決済方法についてご紹介していきたい。
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<執筆者:周 武憲 パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社>