弊社は中国発のグローバルファームとして、戦略/計画策定や業務改革、プロジェクトマネジメントサポート等といったコンサルサービスを提供させて頂いております。中国発であることを活かした中国本国におけるリサーチや事業展開支援等を行っております。本メディアを通して、上海駐在の社員より日本からは見えづらい中国先端の現地現物の情報をお届けいたします。
米国による対中国政策がより厳しくなっています。2023年3月のブルームバーグ社の報道によると、米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動に携わっていることを理由に、輸出規制の対象となる「エンティティリスト」への中国企業の追加を実施したと発表がありました。トランプ政権時代から米中貿易摩擦による関税引き上げも行われており、中国企業の海外での商業活動は益々厳しい状況にあります。
その一方で、中国企業、特に製造メーカは近年ますます国際的な存在感を増しています。中国の製造メーカは如何に競争力を高めることができたのでしょうか。本コラムでは、全4回にわたりタイプの違う3つの中国を代表するメーカ、『ファーウェイ』『Midea』『ハイアール』の3社を対象に行った調査をもとにその取り組みについて紹介し、日本の製造業の競争力向上につながるポイントはないか考察していきます。初回である今回はファーウェイの事例を紹介します。
調査対象企業3社の概要紹介
売上高を指標にしたフォーチュン500のランキングを2012年と2022年の10年間で比較をすると、製造業にフォーカスしてみても2012年は中国企業が14社のランクインに対して、2022年は24社ランクインと伸びています。これには中国国内の国産化政策の動きが大きく寄与している部分がありますが、それ以前に中国製造メーカの製品開発力の向上やサービスの充実化による国際的な競争力の向上が伺えます。
ⅰ.ファーウェイ
ファーウェイは主に通信機器やスマートフォンを製造販売する企業で、中国の製造メーカの中でもトップクラスの規模を誇っており、上海にある旗艦店は毎日のように賑わっている。中国国内では品質の高さから評価が高く、その高品質を実現するため、IPD(統合開発環境)と言われるマネジメント手法を採用し、現在に至るまで運用されている。
ⅱ.Midea
Mideaは主に白物家電やビルテクノを製造する企業で、日本では東芝の白物家電部門の買収でニュースでも取り上げられた。中国ではデパートの家電コーナーに行くと必ずMideaやMideaの派生ブランドの製品が置かれているほど知名度の高い会社である。製品開発では、他領域の技術を組み合わせたイノベーションに力を入れており、多くの新製品を輩出している。また、早くからDXに力をいれたことで、高い効率で製品開発を推進している。
ⅲ.ハイアール
ハイアールもMideaと同様で白物家電を中心に製造する企業だが、市場のニーズに応えることを最重要と考え、顧客をイノベーションに巻き込み、顧客に近い場所でアイディアを生み出すアプローチで、ニッチなニーズに応えた製品やサービスを多数リリースしている。最近では服と靴下を別々に洗いたいという声に対して、通常の洗濯機とは別に小型の洗濯機を販売し、中国国内では大ヒットした。また、膨大な顧客のニーズに早急に答えるために、小規模な事業ユニットに組織を分割する等、大胆な組織改革やオープンイノベーションの活用を積極的に行っている。
上述の通り、同じ中国製造メーカといっても、各社のターゲットや製品開発のアプローチは三社三様であり、それぞれ独自の取り組みを行っている。
事例紹介①:ファーウェイ
ファーウェイの特徴は、IPDと呼ばれるマネジメント手法を採用したことにある。体系的なプロセスを確実に運用することで、製品開発の失敗を抑え、高品質な製品の提供を可能にしている。
<IPDの4つのポイント>
- 製品開発は投資であること
- 要求分析を軸にした製品開発
- 明確な業務プロセス
- PDT(Product Development Team)とマトリクス組織
IPDでは①、②といったごくごく当たり前で見失いがちな基本的な考え方を強調し、プロセスにしっかり組み込むことで、顧客ニーズが不透明な中でも技術を優先し売れない製品を生み出してしまうというシーンの発生を抑制している。
また、③の「明確な業務プロセス」を通じて、フェーズごとに決まったタイミングで経営判断が行われる。
IPDの用語ではDCP(Decision Check Point)と言われるチェックポイントがあり、選択と集中が必要な時や、雲行きが怪しくなったときに製品開発を早い段階で停止することができ、巨額の損出を回避することが可能になっている。また、経営判断の前に、技術レビュー、製品レビューといった複数のレビューポイントが設けられ、品質的に問題がないか細かく審議される。
上述のような失敗を抑える機能だけでなく、④の「PDT(Product Development Team)とマトリクス組織」の運営を通して、迅速な意思決定を可能にしている。ポイントは開発、生産、販売などのメンバーを集めた組織横断のPDTと呼ばれるチームを構成することで、製品開発を推進することができる。ただ集めただけではなく、経営層からそのプロジェクトにおける予算権が委譲されるため、強い権限で迅速に意思決定が行える。
運用においては以下のようなポイントがある
- 迅速且つ的確な意思決定を行えるように、またプロジェクトの責任が明確であるようにするため、各部門からのメンバーを集めチームを構成
- 各メンバーは組織の代表として参加
- プロジェクト全体のマネジメントはPDTチームが行い、プロジェクト実務は昨日組織に仕事を任せることで対応する
- 各メンバーはPDT内の協業、機能部門との橋渡し、自身の領域におけるデリバリーの責任をもつ
- LPDTはPDTチーム内の最大の責任者となる
IPDを導入する以前、ファーウェイは主観で製品を開発し、リリースしてから顧客のニーズに気づき、そのたびに改修することを繰り返していた。製品全体の開発ライフサイクルが長く、品質問題も多発していたと当時の従業員は振り返っている。IPD導入当初は、その重たいプロセスによって更に製品開発が伸びてしまうのではないかという懸念から、導入に反対の声もあった。しかし、導入後は製品全体の開発ライフサイクルが短縮され、高品質を謳うファーウェイの製品開発の礎となっている。
次回はハイアールの事例を紹介します。
終わりに
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出所:
《調査対象企業の概要》ファーウェイ、Midea、ハイアール(HAIER SMART HOME)3社のAnnual Reportを元にPCJで作成
《ファーウェイ事例》华为能,你也能(北京大学出版社)、没有退路就是胜利之路:华为文化之道(機械工場出版社)を元にPCJで作成
<執筆者:周 武憲 パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社>
連載全4回
第二回 ハイアール(次回以降)
第三回 Midea(次回以降)
第四回 日本企業への示唆(次回以降)