はじめに
近年、多くの企業では業務のシステム化やデータを軸にしたビジネスの推進が行われています。これらを効率的に行うには、共通に使用できる基本となるデータが必要となり、一般にマスタデータと呼ばれます。これらのマスタデータを参照する形で、トランザクションデータと呼ばれる個々の取引データが作られます。企業活動を記録するうえで、マスタデータは非常に需要ですが、ほとんどの企業ではマスタデータの整備が不十分なことが多く、システム化の効果を十分に得られなかったり、業務以前のデータ整備の工数が膨大にかかってしまうことが散見されます。
マスタデータの管理は特にマスタデータマネジメント(MDM)と呼ばれますが、今回は、データを活用するうえで重要な、マスタデータの管理を業務の観点から解説します。
マスタデータとは何か?
マスタデータにはどのようなものがあるか
企業におけるマスタデータは、企業活動を通して積み上げてきた貴重な資産です。通常は、各業務の基礎となり、業務をまたがって参照される各種データと、それらのデータ群を総称してマスタデータと呼びます。業務や管理対象ごとに一覧化、整理されることが一般的で、製品マスタ、顧客マスタ、人事マスタ、住所マスタなどがあります。いずれのマスタデータでも、管理対象が一意に特定できることが必要です。
単一のホストコンピューターやアナログでデータを管理していた時代には、マスタデータは企業内に一つしかなく、それを参照しつつ業務を進めることができました。一方で、システム化が進む現在では、同じ管理対象であっても、各種の業務システムに適応する形で複数のマスタデータが散在し、一つのマスタデータで情報が網羅的に管理されていることは少なくなっています。
結果として、情報を一意に特定することや企業全体として正しいマスタデータを利用することが難しくなっています。
マスタデータの利点
そういった運用の難しさがある中でも、マスタデータの活用は重要です。整備されたマスタデータを活用する利点は大きく4つあります。
①品質の一貫性の確保
②生産性の向上
③正確なデータの提供
④セキュリティ面の強化
作業効率や正確なデータの提供だけでなく、個人情報保護の観点からもマスタデータ管理は重要です。企業内でお客様情報など個人情報の管理方法が統一されていない、もしくは管理されていない状態では、データを活用しようとした場合に許諾状況の確認に余分な工数が発生したり、そもそも許諾を得ていない・許諾範囲が異なるデータを利用してしまう危険性もあります。
運用の課題
目まぐるしく変わる社会やビジネスの中で、すべてのデータを常に最新の正しい状態に保つことは不可能です。そのため、それぞれの管理対象を各種のマスタデータとして小さく区切り、相互に連携させることで、データに何か変更が起こった場合でもできるだけ小さい更新の手間でデータの整合性を保つことができます。
しかし先述の通り、以前とは少し状況が異なっています。一つの企業内でも、業務により管理対象が同じでもマスタデータが複数存在する場合も少なくありません。それぞれのマスタデータで更新頻度や収録内容が異なることで、データ連携が十分に効果を発揮できないということもあります。これらの不都合を解消しデータを有効に活用するためにマスタデータマネジメントの重要性が高まっています。
MDMの進め方
ここでも小さい範囲でデータを正しく活用できる環境を作り、これを継続的に続けることで全社のデータマネジメントを改善していく体制を作っていきます。
MDMの目的と収集するデータの決定
まず、MDMの目的を決めます。MDMによる効果はいくつかありますが、狙う効果によって応じて必要なデータの条件などを明確にし、担当者へ伝えられるようにします。
目的が決まったら、MDMの対象となるデータを特定します。保有するすべてのデータを対象とできれば理想的ですが、事業や企業の規模が大きくなればなるほど、扱うデータの種類や量が膨大になります。目的を絞ることで、どのデータをマスタデータとして管理するか対象を特定します。
データの収集と整理
次に、社内にある目的に合ったデータを集めます。製品マスタや価格マスタなどは営業部と経理部門で異なる形で持っている可能性があります。顧客マスタも一つのデータとしてすべてそろっているとは限らず、担当部署や商流によって別々に管理している企業もあるでしょう。これらの分散しているデータを集めます。
また、データを集めると同時にデータそのものの整理にも目を向けます。マスタデータごとにバラバラなデータ項目や、文字コードが異なる場合もあるためこれらを統一します。更新されていない古いデータや既に使えない不要なデータ、重複データはマスタデータを統合した際に混乱を招く恐れがあるため削除します。
これらの整理の後、統合したマスタデータの構造についても検討します。各マスタデータ自体の階層構造や粒度、他のマスタデータとの連携の形を検討します。
運用プロセスの決定
対象となるマスタデータが決まったら、その管理プロセスを決めていきます。決められた形式で整理され、最新かつ正確な情報にしておくことでデータの価値が高まります。整備したマスタデータの運用プロセスを決める際は、以下の観点で見落としや齟齬がないか確認しましょう。
①品質チェック
②データ連携の構造
③固有名詞の統一、名寄せプロセス
④適切なアクセス権設定
マスタデータのレコードを「追加」「更新・変更」「配信」「削除」する際の作業の手順を、部署や業務でばらつきが出ないよう統一化します。データの登録や更新方法が異なると表記ゆれなどが起こるために重複データができ、正しい連携ができなくなる可能性があります。また、これらの作業を担当する人と役割の範囲を定義し、ルール化することで情報の保全にも努めます。MDMシステムを使用する場合はそのシステムの運用手順も整理する必要があります。
一度整備したマスタデータも、運用の中で絶えずデータのクレンジングや運用の見直しが必要になります。常に一定の品質が保てていてこそ、マスタデータ活用のメリットを享受できます。そのために、絶えずマスタデータを整備する仕組みが必要です。
おわりに
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