弊社は中国発のグローバルファームとして、戦略/計画策定や業務改革、プロジェクトマネジメントサポート等といったコンサルサービスに加えて、中国発であることを活かした中国本国におけるリサーチや事業展開支援等を行っております。本メディアを通して、上海駐在の社員より日本からは見えづらい中国先端の現地現物の情報をお届けいたします。
本コラムでは、数回に合わって中国のビジネスリスクについて情報発信して参ります。
中国では近年の急速な経済成長によって、新しい産業や新しいサービスが次々と勃興し、中国当局は時代の変化に合わせたルールメイキングに力を入れています。90年代のパーソナルコンピューターやインターネットの普及によって、誰もが設備と通信環境を持てばどこからでも世界につながることのできる時代となり、データやIT製品はボーダレスに取引できるようになりました。そういった環境の中で、1999年に中国は商用暗号管理規定を公布し、暗号化製品および暗号化技術を持つ製品(以下、暗号製品)の輸出入、中国国内での販売・使用に対して規制を設けました。当初、暗号製品の定義があいまいで、実際のPCやソフトウェアには暗号化技術が少なからず使用されているものがほとんどであるため、どこまで対応しないといけないのか、PCやソフトウェアを持ち込むと没収されてしまうのか、中国出張をするビジネスマンを中心に不安が広がっていました。それから20年近く経った現在も、中国出張をされる方の中では、PCやUSBが没収されてしまうのではないかと不安に感じている方も少なくないと聞いています。
今回、弊社は商用暗号に関連する最新規制を徹底的に調査し、この不安に対して答えていきたいと思います。
中国出張者を悩ませる商用暗号規制
商用暗号とは?
1999年の商用暗号管理条例では、商用暗号とは、国家機密にかかわらない情報に対して暗号化または認証するために使用される暗号化技術あるいは暗号化製品を指すと規定されている。また、これらは国家が統制することになっており、中国国内の会社が、製品の研究開発、生産、販売を行う場合、事前に国家機関の許可を得る必要がある。裏を返すと、国家機関が許可しない暗号化製品は一切使用が認められない。海外の組織や個人が暗号化製品並びに暗号化技術を含む設備を輸入・使用する場合は事前に国家機関への申請が必要とされている。
なぜ商用暗号規制は設けられたのか
理由は2つ挙げられる。1つ目は、90年代の新しい産業である情報産業に対してセキュリティを確保するためである。この時代、情報セキュリティに対して規制はまだあまり設けられておらず、犯罪などに利用されるリスクが大きかったため、国家機密に関わらない情報においても、暗号化による保護を義務付ける必要性があった。2つ目は、中国国内の情報を中国当局が統制できる範囲に置きたかったためと考えられる。急速なITの普及は、同時に外部への情報漏洩リスクを高める可能性があり、一部の企業では海外の暗号化製品の購入の検討が行われていた。仮に海外の暗号化製品を使用した場合、中国当局は情報の開示を技術的に行うことは困難になり、管理できない情報が生まれてしまう。この状況を避けるため、商用暗号規制を設けたとも考えられる。
日本のビジネスマンにはどういった影響があるのか
例えば中国への出張でPCやUSB、電話等を持ち込む際、規制の対象にあたった場合、事前に申請が必要になるため、規制の確認が必要になる。
また、中国国内での商業活動において、日常で情報を暗号化する場合、どのような製品なら使用が可能か、暗号化製品の購買や選定時に考慮が必要になる。
規制の変遷
1999年の商用暗号管理規定は暗号化製品の解釈の範囲が広く、実際の監督や執行まで行われたケースは少なかった。その後、2017年の通知では、輸入に関して「暗号化製品および暗号化技術を含む機器の輸入許可証」の取得が求められ、その対象範囲や申請方法について一歩踏み込んでガイドラインの発表があったことから、一部の外資系企業では許可証の取得に向けた対応が行われた。2020年に入ると上位法規である暗号法が公布され、商用暗号製品の輸入に関して、輸出入許可リストに掲載されている品目や技術に対して申請することが求められるようになった。
■「商用暗号輸入許可リスト」の列挙項目
暗号化された電話機器
暗号化されたファックス機器
暗号機器(暗号カード)
暗号化されたVPN設備
最新の規制から言えること
中国出張者がPCやUSB、電話が没収されてしまうのではないかという不安については、暗号法の「大衆消費製品に使われる暗号製品は対象外」、また商用暗号輸入許可リストに列挙されている「暗号化された電話機器、ファックス、暗号機器や暗号化されたVPN設備が申請対象」というところまで具体化されており、対象製品でない場合は、基本的に没収されることはないと言ってよいのではないかと考える
商用暗号輸入許可リストの活用は、裏を返すと、リストにない品目・技術に関しては輸入できると見なされ、これまで対象範囲が広義で運用が難しかったところを、時代の変化に合わせて具体化したと言える。このように、「チャイナリスク」という言葉が出回り規制強化の印象が世の中に浸透してしまっているが、中国当局は規制強化を行う分野がある一方で、時代に適合した規制への見直しも行っている。規制に対しては不安視するだけではなく、規制の内容とその目的を読み解いた上で、適切に対処していくことが求められる。
終わりに
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<執筆者:周 武憲 パクテラ・コンサルティング・ジャパン株式会社>